第435話◇力と愛


頭の回転が速くて理知的だが、冷たい人がいる。

仕事はとんでもなくできるが、冷たい人がいる。


そういう人を見ていると、冷徹にならなければ人間は力を会得できないのか…と思うことがあるかもしれない。


しかし、それは大きな間違いである。



人間の意識を高めるものは、偉大なものや尊いものに対して抱く「敬・愛」の心、その表裏として己の未熟さを恥じ入る「恥」の心である。


力は様々あるが、突き詰めればその力の源は「真理」である。


真理は冷徹にならなければ会得できないのか?


寧(むし)ろ逆である。

真理に対する敬愛があるからこそ、求める力に対する深い探求ができ、その真摯な努力の結果、力を会得するのである。


力と愛は本来一つであって別々のものではない。

だから、真理を会得した人間、本物の強い人間に、冷たい人はいない。



これを敷衍すれば、

真理を会得しようと結ばれた師弟関係が「冷厳」だけである道理はない。

お互いの、真理に対する熱烈たる姿勢が融合・牽引・共鳴するところに、師弟道の本質がある。


「芸道に対して厳しい師匠」というのは、自分からも弟子からも甘えた心やふざけた心を一掃し、真心をもってその芸道を歩んでいくという、道に対する深い敬愛の表れである。

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