2018年08月

452話◇足りないもの


どうもパッとしない!上手くいかない!

うーむ

「そうだ、あの人に聞いてみよう!」

「一生懸命やってますが、上手くいきません。私に足りないことは何か教えて下さい!」

「あの人」に対して、謙虚も礼儀もわきまえている私の完璧な態度。これで答えを貰えば一攫千金間違いなし。


しかし、「あの人」はニコニコしながら思いもよらぬ質問をしてきた

「あなたに足りないことを伝える前に、聞きたいことがあるんだよ」

「何ですか?」


「上手くいかなかった事実から、あなたが学んだことは何?」


言葉に詰まる馬鹿な私。

「学んだことは山ほどあるだろ?それを見せろと言ってんだよ。まさかお前のその謙虚さも礼儀も、俺からタダで答えを引き出そうとする偽りの態度じゃねぇよな?」


考える時間を与えない特殊な業界での交渉術のような「あの人」の話の流れに、ただ思考停止してしまい、真正面から睨まれて心が折れてしまう軟弱な私。


「そんな心、その程度の努力から育まれる知性や創造力で望む結果が欲しいだと?お前の頭の中はいつまでお祭騒ぎしてんだよ。そんなんでのし上がっていける道理がどこにあるんだ。

お前がどんな道理に根ざして道を歩いてるのか、ここで説明してみろ」。


何も言えない私。


おい、俺の時間を無駄にしに来たのか?それは俺を馬鹿にしに来たつまり、ケンカしに来たということだな」。


え?私は「あの人」にケンカ売りに来たんだっけ?何が何だか分からない私

何故か、指の一本でも置いて来なければ済まないような雰囲気になってしまった。


これ以上私を虐めても面白くないとようやく(?)悟った「あの人」は、

「お前なりに頑張ってるのは認めるが、世の中そうは甘くねぇよな。お前は真面目だが、少し勤勉さと反省が足りねぇんだよ。だから押しの強さが出てこない。

いいか、お前がやってるのは、風で書類が吹っ飛んでいる時、いつまでも風に舞った書類を集めようと駆け回っているようなものだ。

まずすべきは、窓を閉めること。それから書類を丁寧に集めることだろ。

何度も言うぞ。いいか、お前は物事の肝腎なところを疎かにしてあるから、押しの強さが出てこない。本末転倒して必死に頑張っている姿は、見ていて笑えるだけだぜ」。


痛々しくて笑い者の私。


「ま、これで美味いものでも食ってこい。ついでに、詰まらねぇ自分も喰ってしまえ。自分の砂糖のような甘さをしっかり反省しろよ。いつまでの世間を相手にして負け犬やピエロを演じてるんじゃ面白くねぇだろ。

次来る時は、俺を儲けさせる面白い悪巧みでも持ってこい」。

「じゃ、俺は約束があるんで。また」。



帰り際、玄関の壁にこんな額が掛かっていた。

「真面目な人達を喰いものにするな。浅はかな者達に利用されるな」。


台風の影響か、今日は天気まで大荒れだよ。

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第451話◇宝物


造化の道理に根ざし、己の志を掲げ、私たちは様々に志を形にしていく。

素直な心は真善美を願い求める。


日々の生活において、

私たちにとっての宝物とは何だろう。



大切な人の笑顔

果たせない夢

ありふれた愛

叶わない想い

心に刻まれた思い出


これらが宝物でなかったら、一体何が宝物というのか。




弱いフリをしたり悪ぶったりする必要はない。

どこまでも強く強く。


失ったもの、

手に入れたもの、

心に刻んだこと、


全部受け止めて

自分の心に強く素直に生きる。

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450話◇遅すぎた


「即死と致命傷以外はみんなかすり傷」。

そして、心の傷も体の傷も、傷は全て男の勲章だ。


ただ、忘れてはいけない致命傷がいくつかある。そのうちの一つが「タイミング」。

今日の道場法話は「遅すぎた」という話を。



昔、どうにも人相が良くない男がいた。


醜悪とまではいかないが、暗く沈んでいる。心の中では、世の中や人に対する鬱憤がわだかまっていて、いつも懸命に自分を押さえている。

そういった心持ちでの生活が、顔にも態度にも身体にも現れる。


周囲の人たちから見れば、「あいつはどうも好きになれない」「暗い」というようになる。


人々から疎まれれば、本人のごく近しい人間家族や友達も肩身が狭くなる。


ただ本人は器量が小さいので、周囲が肩身の狭い思いをしていることを気付かないか、他人事として済ませてしまっている。

更にタチの悪いことに、自分は強く優れていると思い込んでいる。


「なぜ強い自分、優秀な自分がバカにされなければならないのか」。

世の中は自分を理解してくれない、受け入れてくれないとよく愚痴っていた。


いつの間にか、「何か言うと反抗ばかりする男」「付き合いにくい男」という印象が周囲に根付いてしまっていた。



本当は、もう少し愛想よく立ち回らなければいけない。

どんなに優れた特技を持っていたとしても、それは「諸刃の剣」である。

それを忘れると、一つの技を極めたことが、かえって人生を誤ってしまう事になる。


自ら常に反省して、そういことに気が付かなければならない。自ら学ばなければならない。


仕事だけでなく、勉強や稽古でもして、もっとまともにならなければいけない。



人間の本性は「後ろ姿」に現れるという。

人から好かれない生活を長く過ごしてきた彼の後ろ姿は、凶暴というより、世の中から見捨てられたと思い込んだ独りぼっちの寂しさに溢れている。


こういう男が、一旦心身の均衡を崩すと恐ろしいことになる。

周囲の関係ない人にまて迷惑を及ぼすような馬鹿なことをやりかねない。

側に置くなら、声をかけたり話を聞いてあげたりして、気をつけて見ていないといけない。



こういう男に根本的に欠落しているのは、「造化」につながる信念や哲学。


確かに勝負には強い。相手を倒すことで自分の強さを確かめてきたかもしれない。

しかし、勝負の中でもっと先を学ばなければならない。

「相手を倒すだけではつまらない」そう意識を伸ばさなければいけない。



ホンモノというものは「造化」につながっている。

だから、「相手を倒す」だけの勝負は、まだホンモノではない。

造化に繋がる勝負とは、他人を活かし自分も活かすものでなくてはならない。


そうなれば、自分の強さは他人に見せるものではなく、自分に見せるものと分かってくる。

だから、「強さとは、弱い己に打ち克つこと」なのだ。



ただ、何事にも時がある。

「遅すぎた」ということが悲劇を生むこともある。


私も含め、周囲が彼に声をかけてあげるのが遅すぎた。

彼も、自分を反省し本当の勇気を出すのが遅すぎた。



もう少し早く声をかけてあげられたら。

もう少し早く自分で自分を変えられたら。


本当は優しい男なのに、彼は自らの手で己の人生をぶち壊してしまった。

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