第518話◇グレープフルーツ
「会場の雰囲気に呑まれてしまって…」
「緊張してしまって…」
変な言い訳している男たちがメディアに映っていると、昔を思い出してちょっと同情してしまう。
昔々、
臆病や怠惰を隠す言い訳ばかりして、自分と師を騙し、同情を引き出させるように仕向け、臆病や怠惰を養ってしまっていた時期があった。
言い訳の天才になってしまった私は、とうとう師に呼び出された。
手にグレープフルーツを持った師を見て、馬鹿な私は「グレープフルーツ大好きなんです!」と、甘ちゃんな声を上げていた。
師は「そうかそうか」とニコニコしながら、私の頭上でそのグレープフルーツを握りつぶした。
私の頭上から滴り落ちてくるグレープフルーツ…。
「舐めてみろ。何の味だ?」
「…グレープフルーツです」
「おい!」
「…はい」
「プレッシャーに際し、お前から出てくるくだらない言葉や情けない態度、あれは一体何なんだ?」
「…すみません」
「本当の自分は違うのか?」
「…」
「プレッシャーをかけて出てくるものは何だ?」
「…」
「お前が出せるものは、お前の中にあるものだけだ」
信念があれば、
笑顔があれば、
感謝があれば、
それを出せる!
大好きなグレープフルーツのように!
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